重厚SF映画「メッセージ」レビュー|”彼ら”との出会いは人類に何をもたらすのか

公開日|2022年1月14日

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1 あらすじ

世界各地で12隻の宇宙船が突如出現。大学で教授を勤めている言語学者のルイーズ・バンクスは、いつものように登壇し生徒たちに授業をしようとしていた。しかし、宇宙船の出現により世界はパニック状態となってしまう。混沌とする中、ルイーズは、国から言語学のプロフェッショナルとして宇宙船内の知的生命体との接触を要請される。果たして“彼ら”が地球に来た本当の目的とは?


2「メッセージ」の監督・主要キャスト

世の中には名作と呼ばれるSF映画がたくさんあります。このメッセージももちろん名作の一つなのですが、監督や俳優たちによる、単なる名作とは括れない描写や演技があったりと、名前の通りメッセージ性が内包されています。

監督|ドゥニ・ビルヌーブ

Paramount Pictures

今作「メッセージ」の監督を務めるのはドゥニ・ビルヌーブ。ドゥニ・ビルヌーブはカナダ出身の映画監督です。カナダの映画コンクールである「La Course Europe-Asie」の優勝を期に「渦」「灼熱の魂」などインディーズ映画の監督として、さらには脚本家としての手腕も世界から評価されるようになります。

そして2013年のヒュー・ジャックマン主演の「プリズナーズ」で満を辞してハリウッドに進出。この「プリズナーズ」は、ドゥニ・ビルヌーブという名が世界に知れ渡るきっかけと言っても良い作品なのではないでしょうか。いっときも目を離せないストーリーと、ドゥニ監督ならではの暗雲立ち込めるような絵作りは評論家たちを唸らせました。

そして今作「メッセージ」は今までのドゥニ・ビルヌーブ作品とは打って変わって”SF”というジャンルの映画。社会派の作品を撮ることが多かったドゥニ監督なだけに、意外なイメージを持たれた方もいるかもしれません。しかし、「メッセージ」以降の作品では立て続けにSF作品を発表しており、SF作品を撮りたいという思いは少年時代からの夢であったと公にしています。今後のドゥニのSF作品にも注目です。

ルイーズ・バンクス役|エイミー・アダムス

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エイミー・アダムスはアメリカ出身の女優です。アカデミー助演女優賞に6回もノミネートされている実力派女優の一人です。恥ずかしながら筆者はエイミー・アダムスをあまり良く知らなかったのですが、レオナルド・ディカプリオ主演の「キャッチミーイフユーキャン」でディカプリオの恋人役を演じていたと知り、驚きました。

この「メッセージ」で初めてエイミー・アダムスを意識したのですが、エイミー・アダムスの演技は圧巻です。あまり多くは語らない表情だけのシーン一つとってもこの「メッセージ」という映画に深みを与えています。非日常が広がるSFという世界観の中で、エイミー・アダムスは確かに現実にいる一人の女性として、そして言語学者として「メッセージ」の世界に溶け込んでいました。

イアン・ドネリー役|ジェレミー・レナー

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ジェレミー・レナーはアメリカ出身の俳優です。洋画をよく観る方だったら一度は見たことのある顔なのではないでしょうか。ヒット作に数多く出演しているジェレミー・レナー。中でも「アベンジャーズ」シリーズや「ミッション・インポッシブル」・「ボーン・レガシー」などビッグバジェットの作品に数多く出演しており、人気俳優の一人です。

アクション映画などでクールや役柄を演じることが多いジェレミー・レナーですが、今回「メッセージ」では物理学者の役柄を演じており、少しクールとはかけ離れた役所となっています。未知の体験に心を踊らせる役ですが、謎を解明しようと真摯に向き合う学者の姿は、クールな魅力があるジェレミー・レナーだからこそ演じられたのではないでしょうか。


3 メッセージの原作

映画「メッセージ」はオリジナル作品ではなく、原作小説があります。

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原作小説は、テッド・チャンのSF短編小説「あなたの人生の物語」。

テッド・チャンは、大学で物理学やコンピューター学を学んでいたこともあり、物理や数学といったものを用いた作風が多い作家です。

初めは実写化することに対して映像化ができるのかという疑問があったテッド・チャンでしたが、ドゥニ・ビルヌーブ監督の「灼熱の魂」を見て、いわゆる大衆SF作品のような単調な絵作りではなく、チャンの思い描く絵作りと合致したため、実写化を快諾したそうです。

映画「メッセージ」を見て原作も気になった方は一度手にとってみてはいかがでしょうか?


4 メッセージの音楽

https://www.universal-music.co.jp/johann-johannsson/

映画「メッセージ」で音楽を担当したのはアイスランド出身の作曲家ヨハン・ヨハンソンです。

「ポストクラシカル」と呼ばれるシーンにおいて代表的な音楽家の一人です。ジャンルに縛られない音楽性と作品に寄り添う彼の作品は、映画をさらに上のステージへと格上げしてきました。しかしヨハン・ヨハンソンは、2018年2月9日、48歳という若さでこの世を去りました。

映画「メッセージ」においてのヨハン・ヨハンソンの音楽はSF作品と親和性の高い音楽となっています。特に宇宙船をルイーズが初めて目にするシーンなどでかかる音楽は、未知との接触を音で完璧に体現しており、素晴らしいものとなっています。


5 メッセージで話題になった「ばかうけ」とは?

2016年原題である「Arrival」のオリジナルポスターが公開された際、地球上に現れた宇宙船のデザインが、SNSなどで栗山米菓の米菓であるばかうけに酷似していると話題になりました。

ドゥニ・ビルヌーブ監督が日本に来日した際に、インタビュアーなどから宇宙船のデザインがばかうけに似ていると言われたことから、そのアンサーのような形でドゥニ監督は、日本のファンに向けて「宇宙船のデザインはもちろん”ばかうけ”に影響を受けた」とジョーク動画を上げています。

そしてこのばかうけ酷似の話題はさらに広がりを見せ、ついには公式とばかうけがコラボし、公式ポスターを発表。

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1705/22/news044.html

なんともユニークなポスターに仕上がっており、映画本編とは関係のないところでも盛り上がりを見せた映画「メッセージ」でした。


6 ヘプタポッドの指す3000年後の未来とは?(ネタバレあり)

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映画「メッセージ」の物語終盤において、ルイーズがヘプタポッドに地球に来た目的を訪ねます。するとヘプタポッドは「3000年後に人類の助けがいる」とルイーズに伝えます。ヘプタポッドは3000年後に人類の助けが欲しい、だから我々(ヘプタポッドたち)の使う言語を人類に提供するという交換というわけです。

具体的に3000年後の世界が描写されるわけでもなく、とにかく人類の助けがいるということしかわかりません。ヘプタポッドにとっては重要な資源の枯渇なのか、はたまた生命活動の危機が訪れるのか、想像でしか語ることはできませんが、想像を掻き立てられるルイーズとヘプタポッドの”対話”のシーンでした。


7 メッセージのラストを解説(ネタバレあり)

https://www.sonypictures.jp/he/1289466

ヘプタポッドの「武器を提供する」というメッセージによって、各国は「各国に武器を提供して戦争させることが目的」と捉え警戒態勢となります。しかしここで言う「武器」の本当の意味とは「言語」のこと。地球外生命体たちは、人類に新たな言語を獲得させる代わりに、3000年後の地球外生命体の危機に、人類に助けてもらうという筋書きを立てていたのです。

ルイーズは言語学のプロフェッショナルであり、ヘプタポッドの言語を理解しつつありました。理解して行くうちに、ヘプタポッドの使う言語に内包していた、ヘプタポッドの世界認識についても理解していきます。それは、過去・現在・未来という時間の流れを認識せず、それらを同一視する同時的認識様式であったのです。

実は、物語序盤においてルイーズが見ていた自分の娘の光景は過去ではなく、未来のことであり、それはヘプタポッドと交流を深めていくにつれて、時制の流れを意識することなく未来の映像がルイーズには見えていくのでした。

中国がヘプタポッドたちに武力行使をするといった表明をしてましたが、ルイーズの未来が見える力によって、戦争を止めることに成功しました。未来が見えるルイーズは、イアンとの娘が若くして亡くなってしまうことを知りながらも、イアンとの運命を受け入れることを決め、物語は幕を閉じます。


8 メッセージが好きな人におすすめの映画

月に囚われた男

© 2009 Lunar Industries Limited. 
監督|ダンカン・ジョーンズ
公開日|2010年 
上映時間|97分

地球の資源が枯渇した近未来、宇宙飛行士のサム(サム・ロックウェル)はエネルギー源を地球へ送るため、3年契約で月面の基地にたった1人で派遣されていました。話し相手はコンピューターのガーティだけ。地球との交信は衛星の故障によりできず、録音したメッセージをやり取りするだけ。そんな孤独な生活も残り2週間に迫ったある日、作業中に事故が発生します、サムが治療室で目覚めると、そこには衝撃の事実が待っているのでした。

月で孤独な生活をする主人公が違和感に徐々に気づいていく展開がとても見どころの作品です。500万ドルという低予算で製作されたにも関わらず、その綿密なプロットと謎が謎を呼ぶ展開が評論家からも認められ、数々の映画賞を総なめしました。ほとんどが基地内のシーンにも関わらず、ずっと画面に釘付けになってしまいます。デヴィッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズが監督したことでも話題となりました。一風変わったSF映画を観たいという方におすすめの作品です。