
新時代の学園ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」第1話から世界観に惹き込まれた
公開日|2025年7月15日
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今回紹介するのは、2025年7月14日から放送開始となった、関西テレビ・フジテレビ月10ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」(通称「ぼくほし」)です。
民放の連続ドラマで初主演を務める磯村勇斗が、スクールロイヤー役を務め、ヒロイン役には堀田真由、そして学校の理事長役には、約9年ぶりに民放連ドラに出演する稲垣吾郎と、盤石のキャスト陣が揃った。
あまり馴染みのない「スクールロイヤー」を題材にしたドラマということで、筆者も放送前から気になっていたが、第1話を観終えると、不思議と心が温まるような物語だと気づかされた。
そんな「ぼくほし」の第1話を観ての感想を、あらすじや登場人物の紹介をしながら、話していきたいと思います。
僕達はまだその星の校則を知らない
基本情報

脚本|⼤森美⾹
監督|山口健人 高橋名月 稲留武
音楽|Benjamin Bedoussac
主題歌|ヨルシカ「修羅」
(Polydor Records)
制作著作|カンテレ
放送|2025年7月14日~
あらすじ
不登校になった過去を持つ弁護士の白鳥健治(磯村勇斗)は、学校で発生する問題について、法律に基づいた助言や指導を行うスクールロイヤーとして「濱ソラリス高校」に派遣される。
しかし、「濱ソラリス高校」は、男子校の「濱浦工業高等学校」と女子校の「濱百合女学院」が合併したばかりで、校内では次々と問題が発生していた。
そんな状況下で、3年生の生徒会長と副会長がそろって不登校となってしまい、事態はさらに複雑化してしまう。
やがて生徒たちの間で、2人の不登校の原因は合併による校則の変更なのではないかという憶測が広がり、不満を募らせていた生徒たちが制服を廃止するように学校を訴えようとする。
そこで健治は、国語教師の幸田珠々(堀田真由)の助けも借りながら、“制服裁判”なる模擬裁判を提案するが…。
主な登場人物
白鳥健治|磯村勇斗

久留島法律事務所に勤める弁護士。恩人でもある所長の久留島かおる(市川実和子)の命により、「濱ソラリス高校」にスクールロイヤーとして週3日の派遣勤務をすることになる。
星や植物、豊かな自然が好きで、幼少期から文字や音に「色」や「匂い」を感じるという独特な感性を持つ。祖母と2人暮らしをしている。
幸田珠々|堀田真由

「濱ソラリス高校」3年桜組の担任教師で、担当教科は現代文。宮沢賢治の大ファンで、教員デスクに彼の写真やグッズを置くほど。
学校にまだ慣れない健治のサポート役を任されることになる。
尾碕美佐雄|稲垣吾郎

濱ソラリス高校を運営する「学校法人・濱学院」の理事長。少子化によって経営がひっ迫する学院を立て直すべく、男子校「濱浦工業高校」と女子校「濱百合女学院」を合併することを提案。
スクールロイヤーとして健治を快く招くが、彼の名前を聞いた途端、驚いた様子を見せる。
共学化した高校でトラブル勃発
学校嫌いの健治がスクールロイヤーとして「濱ソラリス高校」に派遣されたその初日から、校内にはどこか不穏な空気が漂っていた。
どうやら共学化によって、男子側・女子側の双方から不満の声が上がっており、その影響は教師や職員にも及んでいる。そんな状況が、登場人物によるカメラ目線のメタ的な語りで描かれていった。
鑑賞前はなんとなく重苦しい雰囲気のドラマかと思っていたが、このコミカルな状況説明の描写が入ることで、作品全体の方向性を掴めたような気がする。
第1話で焦点が当てられたのは、合併時に導入された新しい制服。
ジェンダーレスに合わせたデザインと言われていたが、それに伴って決められた校則が厳しすぎると男子生徒の声や、合併前に着ていた制服の方が良かったという女子生徒の不満も根強く、生徒と学校側との間で折り合いがつかない状況が続いている。
どうやらその制服にまつわる事件が2週間前の朝礼で起きたらしい。

スラックスを履く生徒会副会長の斎藤瑞穂(南 琴奈)が、生徒会長の鷹野良則(日高由起刀)を壇上に呼ぶが、彼は何故かスカートを身につけており、それを見た多くの生徒と教師は驚きを隠せなかった。
事件の翌日から、瑞穂と良則は欠席。学校側は健治に法的な見解を求めるが、人の気持ちが分からない健治は「放っておいたら良いのでは」「休ませあげましょう」と言う。
一見すると無責任な発言にも聞こえるが、スクールロイヤーという立場から、法律に基づいた明確な根拠をもって語られていたのは印象的だった。
さらに、健治が学校を「子どもたちが“普通”という一色に染められ、管理される息苦しい場所」と捉えている点も興味深い。
かつて周囲と馴染めず孤立した経験を持つ彼だからこそ、“普通”という名の同調圧力に苦しむ生徒たちの気持ちに、自然と寄り添う姿勢が見えてくる。
とはいえ、不登校の原因を不明なまま放置するわけにもいかず、健治は瑞穂と良則に近しい生徒たちから話を聞き始める。
学校に蔓延する「普通」を疑う
生徒会の議論を円滑に取り仕切る、議長・北原かえで(中野有紗)と副議長・有島ルカ(栄莉弥)によれば、そもそも瑞穂と良則の関係は決して良好ではなく、同じタイミングで不登校になるのは不自然だという。
かえでは、2人の不登校の原因は校則にあると断言する。
この場面で教員と交わされた議論は、「なぜジェンダーレス対応の制服であるにもかかわらず、女子のスラックスは認められているのに、男子のスカートは不可なのか」という点についてだった。
近年、メディアでもたびたび取り上げられているジェンダーレス制服の話題。まさに“今”を象徴するテーマだと感じると同時に、教師側が発した「常識的に考えて」「普通は」といった言葉が、もはや説得力を持たないことにも気づかされる。
性別を理由に求められる価値観や固定観念を取り除くことが「ジェンダーレス」という思想であるならば、制服だけでなく、髪型、アクセサリー、メイクなど、すべてを個人の自由に委ねるべきではないか——そんな意見が出てくるのも当然に思える。
かえでは「いっそ制服そのものを撤廃すべきだ」と提案し、学校側に法的異議を唱えるため、健治に協力を依頼。模擬裁判を行うこととなる。
被告側としては理事長・尾碕美佐雄も裁判に参加し、模擬とは思えない本格的な議論が展開されていく。
かえでは事前に法律についても学んだ上で、「服装は個人の自由であり、他人が侵害することは出来ない」と主張。
これに対して尾碕は、学校の校風という観点から校則を定めることが許容されている例を示し、さらに私服になれば貧富の差が可視化されたり、不審者が生徒に紛れて凶悪な犯罪を起こす可能性も提示する。
「高校生らしさ」によって守られている側面もあるのではないかという尾碕の反論に、かえでたちは何も言い返せず、議論は幕を閉じる。
その結果、原告の請求は棄却され、模擬裁判は終結する。
不登校になった理由
瑞穂と良則が不登校になった理由も語られることになった。
合併に伴い制服が変わったタイミングで、瑞穂はスラックスを履き始める。彼女にとっては「ただ履いてみたかっただけ」という軽やかな動機だったが、周囲は勝手な憶測をめぐらせ、そこに意味を付け始めてしまう。
そんな周囲の視線や声を聞き、苦しそうにしていた瑞穂を見て、良則だけは味方でいたいと思いスカートを履いたのだと言う。
良則は瑞穂に電話をかけ、2人は翌日から登校することに決める。
この電話のシーンは第1話のなかでも特に素晴らしい場面だと思った。
恋愛感情とは少し異なる、絶妙な温度感の会話が交わされる中で、良則は瑞穂を気遣いつつも学校に登校して欲しいと優しく伝える。瑞穂もまた、自分のためにスカートを履いてくれた良則の想いを理解していたからこそ、最後に口にした2度の「ありがとう」が、なんだか温かい気持ちにさせられた。

そしてこの電話の場面を観ている時に気づかされたのは、本作が画面構成にも強いこだわりを持っているということだ。全体的に落ち着いた色調で統一されていることも相まって、ドラマでありながらまるで映画のような雰囲気を醸し出している。
話を戻すと、結局のところ今回の校則をめぐる議論は何も解決することなく終わってしまった。
全校生徒へのアンケートでは、70パーセントの生徒が今のままの制服で良いと回答したと判明したが、それは同時に30パーセントの生徒が現在の校則に不満を抱いているということ。
そんなマイノリティの声はどうでも良いのかという生徒の声が、健治の耳に直接届くが、それに対して彼は何も言うことができず、ただやるせない表情を浮かべていたのは強く印象に残る。
「弁護士に向いていない」と言われる健治が、過去に悪い思い出しかない学校の中で、どんな歩みを進めていくのか。
学校が好きだ語る生徒や、学校を自分の居場所にしようと懸命に動く生徒を不思議そうに見つめながらも、彼らから見える色に興味を持ったことが、どのように物語と絡んでくるのかが楽しみだ。
また、健治がつぶやいた「ほんとうの幸いって一体何なんでしょうね」という一言に、珠々が宮沢賢治の面影を重ねる場面も印象深い。
本作には、宮沢賢治の作品をモチーフにした描写が随所に散りばめられており、それは主題歌・ヨルシカの新曲「修羅」にも繋がってくる。
これは宮沢賢治の詩集である「春と修羅」をモチーフとした楽曲となっており、物語終盤で流れた際は、繊細な世界観をまとった「ぼくほし」と見事に呼応していたなと感じた。
以前筆者が「春と修羅」を読んだ時は、非常に難解な上に少し怖い印象すら受けたのだが、作品への理解を深めるために改めて読もうと思う。
そういえば「ムムス」ってどういう意味だったんだろうか。
宮沢賢治「春と修羅」
