東京で淡いロマンスを 映画「ロスト・イン・トランスレーション」レビュー|あらすじ・ホテルのロケ地・感想など
公開日|2022年5月30日 最終更新日|2024年10月22日
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今回紹介するのは、音楽やファッションなどのセンスが光るガーリー・ムービーの先駆者ソフィア・コッポラ監督の映画「ロスト・イン・トランスレーション」。全編東京で撮影された本作は、海外目線での東京ではなく、ソフィア・コッポラ監督の視点からリアルな東京の街並みがたっぷり映し出されている。名優ビル・マーレイと、弱冠19歳のスカーレット・ヨハンソンの2人の魅力も存分に堪能できる一作だ。そんな「ロスト・イン・トランスレーション」を感想や解説を交えながらレビューしていく。
Contents
ロスト・イン・トランスレーション
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1 あらすじ
ウィスキーのコマーシャルのために来日したハリウッドスターのボブ。滞在先の東京のホテルでは、スタッフから歓迎を受けるが、東京という異国に不安や戸惑いを感じており、アメリカにいる妻との関係も倦怠気味。一方、同じホテルに泊まっていた若妻のシャーロットは、写真家の夫に同行して来日したが、仕事で多忙の夫と過ごせる時間はなく、異国の地で自身の未来に漠然とした不安を感じていた。ホテルのバーで何度か顔を合わせていた2人だが、そのうち酒を酌み交わすようになり、ついに意気投合する。人でごった返すネオン街の東京に繰り出し、同じ時を過ごすボブとシャーロット。2人の間にはいつしか友達以上恋人未満の不思議な空気感が生まれていた。
2 ロスト・イン・トランスレーションの評価
★★★★★|5/5
3 ロスト・イン・トランスレーションの監督・キャスト
脚本・監督|ソフィア・コッポラ
本作「ロスト・イン・トランスレーション」の監督を務めるのは、ソフィア・コッポラ。彼女は、コッポラファミリーと呼ばれる華麗なる映画一族の末っ子として1971年にニューヨークで生まれた。父親は「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録」などで知られる映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラ。彼女のヒストリーを語る際に偉大な父親の影は必ずついてくるが、ソフィア・コッポラは親の七光りという逆境を実力で乗り越えた映画人の一人だろう。
演技経験ゼロで「ゴッドファーザーPARTIII」に出演し、第11回ゴールデンラズベリー賞でワースト新人賞とワースト助演女優賞の2冠という不名誉な賞を獲得してしまったのは過去のこと。彼女は俳優としてではなく、ファッションや写真家という畑で名を馳せる。本作は、ソフィア自身が別の道を歩み始めた頃に東京に来日することが多くなり、そこで経験した出来事が反映されている。東京というロケーションは、彼女の人生の節目をそのまま映し出したような場所でもあるのだ。
ボブ役|ビル・マーレイ
ボブ役を演じるのはビル・マーレイ。70年代後半からバラエティ番組でコメディアンとして人気を博すと、以降は様々な映画に出演し、愛されるキャラクターを多く演じる。
本作では、初老のハリウッドスターのボブを演じた。慣れない日本で右往左往する姿はビル・マーレイならではの表現力。妻との倦怠期を表情と佇まいで表現しているのも素晴らしかった。日本に住んだことのある人ならわかる日本あるあるも随所で出てくるので、それも見どころの一つだろう。
シャーロット役|スカーレット・ヨハンソン
若妻のシャーロットを演じるのはスカーレット・ヨハンソン。「アベンジャーズ」シリーズのナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ役も記憶に新しい彼女は、その美貌と演技力から映画のオファーが絶えず、名実共にトップクラスのハリウッド女優だ。近年では「マリッジ・ストーリー」でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。
本作ロスト・イン・トランスレーション出演時は10代だが、既にキャリア初期から繊細な表現力を持ち合わせていた。結婚したばかりで幸せなはずなのに、未来に不安を抱えるシャーロットの東京に向ける虚ろな視線は、それ自体が美であるかのように画面に映し出される。
ジョン役|ジョバンニ・リビシ
シャーロットの夫で、カメラマンの役を演じた。
ケリー役|アンナ・ファリス
ジョンと知り合いで、口数は多いが、中身のない話をし続けるハリウッド女優役。
マシュー南役|藤井隆
なんとびっくり藤井隆。日本が舞台なので、誰か出るのではないだろうかと思っていたが、実際のテレビ番組「Matthew’s Best Hit TV」のマシュー南がゲストとしてボブを呼ぶというのは斬新だった。
全く世代ではないので、どんな番組かは知らないが、ボブは終始ひどく混乱した様子で、ホテルに帰るやいなやぐったりする様子を見ると少し気の毒だ。
CMディレクター役|ダイヤモンド・ユカイ
映画序盤の癖がスゴすぎるディレクター役を演じたのはダイヤモンド・ユカイ。ウィスキーのCMで「パッションが大事!」「こう!内から湧き出るもの!」と抽象的な指導をボブにするシーンは印象的。そして必ず最後には業界人っぽく「サントリーターーイム」と言う。この癖スゴディレクターが妙に頭にこびりついた。
4 ロケ地から紐解く孤独の街「東京」
ロスト・イン・トランスレーションを語る上で欠かせないのは、何と言っても舞台の東京。ソフィア・コッポラ監督の目線で描かれる東京という街並みは、強い孤独を感じさせながらも、豊かで美しい色彩に包み込まれ、不思議と落ち着くのだ。ここでは少しロケ地を振り返っていこうと思う。
パークハイアット東京
ボブとシャーロットが泊まっていたホテルは、東京・新宿区にあるパークハイアット東京。レストランやバー、スパ&フィットネスなど充実したラグジュアリーな空間が広がっており、劇中でも何度も登場した。
中でもバーは印象的で、ボブとシャーロットが初めて会話をするシーンで使われた。名前はニューヨーク・バーと言い、高層からの夜景を楽しみながらお酒を飲んだり、生演奏のジャズを堪能できたりする。
映画の大半はここパークハイアット東京で撮影が行われたが、撮影許可がおりたのは本作ロスト・イン・トランスレーションが初めてなんだそう。ソフィア・コッポラ監督が過去に何度も泊まったことのあるこのホテルは、一度入ると外に出たくなくなると本人も語っている。
決して安くはない値段だが、映画ファンなら一度は聖地巡礼を兼ねて行ってみたいところ。
渋谷センター街
東京の街に繰り出したボブとシャーロットが渋谷センター街を駆け抜ける。なんだかベタベタなシチュエーションだと思ったが、見慣れた街のはずなのに、彼らの視点で見る渋谷センター街は、ごったがえしていても不思議と落ち着くのだ。
それはひとえにソフィア・コッポラ監督の見た東京という街が、無機質で孤独を感じさせる大都市に見えながらも、一度外に出れば、奇妙で魅力的な街として鮮明に印象づけられたからだろう。我々が”普通”として見る光景でも、映画での視覚体験となると”非日常”の気分を味わわせてくれる。
新宿 西口 ヨドバシカメラ前
物語のラストで、ボブとシャーロットが抱擁するシーンは、新宿西口のヨドバシカメラの前。ネオンで光るこの通りは、海外から見た東京の象徴とも言える場所だ。ロマンス映画でラストが新宿というのは新鮮だったが、あえてこの場所を選んだことで、異国の地での男女の出会いと別れというのが一際強調されている。
ソフィア・コッポラ監督と長年交友のあるマルチクリエイターの野村訓一は、ロケ地がベタな東京ということでどう映るのかわからなかったそうだが、いざ監督の手で作られた映画を見るといつもと違って見えたと語っていた。
東京に住んでいる人ならわかるいつもと違った東京を堪能してほしい。
5 新しい男女の関係性
ロスト・イン・トランスレーションは、異国地でのトラベル映画でありながら、ありふれていない男女の関係性も描いていると言える。ボブとシャーロットは恋人ではない。では、恋に落ちていないのかと言えばそういう訳ではないだろう。お互いの間にある”何か”の距離を保ちながらも、人生における最大の悩みを打ち明けられる程に打ち解けたプラトニックな関係性。
「行き詰まってるの 本を書いても 写真を撮ってもだめ 何をやればいいかわからないの」と結婚しても人生に吹き抜けがないシャーロットにボブは優しく答える。「自分自身や望みがわかってくれば振り回されることもない 今に道が見つかるよ」と。映画序盤から哀愁表情を見せていたボブも自身の子供ができたことによって変わってしまった家族観の悩みをシャーロットだけに打ち明ける。
ハリウッド俳優として活躍したボブ、人生の指標を探す若妻のシャーロット、彼らの関係性は一見不思議なものだが、それは恋人や友達や家族といったくくる名前がないだけであって、確かな絆がそこには生まれていたのだ。
6 ロスト・イン・トランスレーションの考察と感想
旅の終わりの言葉
ロスト・イン・トランスレーションは異国の街東京で、二人の男女がかけがえのない時を共に過ごす掛け替えのないロマンスストーリーとなった。
ところで、ボブとシャーロットが新宿の西口で抱擁するラストシーンで、ボブがシャーロットの耳元で何かを口ずさみシャーロットが涙ぐんでいたが、一体どんな言葉をかけたのだろうと少し考えた。
これはただの考察なのだが、まず異国の地で不安だった旅をシャーロットと過ごせたことへの感謝、そして行き詰まった彼女へ、君なら大丈夫だと、そういった趣旨の言葉を伝えたのではないかと思う。ラストシーンの言葉を考察するのは少し無粋かと思うが、2人の雰囲気を見ると、明らかにプラスの言葉だとわかる。いずれにしても想像の中で余韻を楽しむシーンでもあるので、受け取り手次第である。
何も起こらない映画、でもそれだけじゃない
東京にいると少し息が詰まりそうになることがある。それはすぐに言葉に変えられるようなことではなくて、心の奥深くにある何か。本作「ロスト・イン・トランスレーション」では映画冒頭から2人の男女が東京の街を背に悲哀に満ちた表情を見せていたが、お互いを知るにつれて、不安や家族観といった悩みの種を言葉へと変換し、少しづつその表情も豊かになっていく。
物語として大きな起伏はないものの、ボブとシャーロットが見つめる東京や日本の名所の数々は、間違いなく彼らの心の中を反映させたものであり、その色彩美はソフィア・コッポラ監督の手によってより表情豊かなものになっていた。
なんだか息が詰まりそうになった時にこの映画を見てほしい。それは、ボブとシャーロットが抱える得体の知れない不安が、我々現代人の持つ悩みと似通ったものだからだ。そして、彼らと同じ時間を共有し、映画を見終わる頃には、喉元で詰まっていたものはフッと軽くなっているに違いない。「2度と東京には来ない 今回が楽しすぎて」シャーロットはこんな素敵な言葉を残してくれたのだから。
そしてエンドロールには、はっぴいえんどの「風をあつめて」が物語の終幕に優しく流れる。
7 ロスト・イン・トランスレーションが好きな人におすすめの映画
her / 世界でひとつの彼女
近未来のロサンゼルス。セオドア(ホアキン・フェニックス)は、他人の代わりに想いを伝える手紙を書く代筆ライターの仕事をしている。孤独感を感じているセオドアはある日、新型の人工知能OSをインストール、女性の声をした人口知能は自身の名前をサマンサ(スカーレット・ヨハンソン)と名乗る。セオドアは彼女が発する声やユーモアある表現に人間らしい魅力を感じ、次第にサマンサに強い愛情を感じていく。
アカデミー賞で脚本賞を獲得するなど、物語の完成度がとにかく高いが、特に筆者が注目して欲しいのはスパイク・ジョーンズ監督のビジュアルセンスだ。近未来都市のデザインやセオドアの家の内装、オフィスの雑貨など、どこを見ても待ち受けにしたいくらいお洒落なカットだらけ。色彩感覚が豊かなアーティストたちからも高い評価を受けている映画というのが納得だ。
何よりスカーレット・ヨハンソンが出演しているので、彼女の魅力を堪能するにはうってつけの作品だろう。
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