最恐ヒロインが爆誕 アニメ「小市民シリーズ」レビュー|氷菓との違い・あらすじ・声優・聖地など
公開日|2024年9月30日
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今回紹介するのは、2024年夏アニメで話題となった「小市民シリーズ」。原作は、氷菓などの「古典部シリーズ」の作者であり、近年では「黒牢城」で直木賞を受賞した米澤穂信が紡いだ大人気ミステリ。小市民を目指す小鳩くんと小山内さんが作り出す独特の空気感が堪能できる作品となっている。そんなアニメ「小市民シリーズ」を、キャストや音楽、聖地などの紹介を交えながらレビューしていく。
Contents
小市民シリーズ
原作|米澤穂信 「春期限定いちごタルト事件」「夏期限定トロピカルパフェ事件」(創元推理文庫 刊)
監督|神戸 守
シリーズ構成|大野 敏哉
キャラクターデザイン|斎藤 敦史
音楽|小畑 貴裕
制作会社|ラパントラック
https://shoshimin-anime.com
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※本ページの情報は2024年10月時点のものです。
最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
1 小市民シリーズの評価
アニメ「小市民シリーズ」のおすすめ度
★★★★★★★☆☆|8/10
2 小市民シリーズの作品情報
あらすじ
中学時代の苦い経験から、平穏で慎ましい小市民を目指すことを決めた小鳩くんは、同じ志を持つ同級生の小山内さんとたがいに助け合う”互恵関係”を結び、穏やかな高校生活を送ろうとしていた。ところがふたりの日常には、不可解な事件や災難が次々と舞い込んでくる。はたして小鳩くんと小山内さんは小市民としての穏やかな生活を手に入れることができるのだろうか。
小市民シリーズのキャラクター
小鳩常悟朗
本作の主人公。船戸高校1年。かつては”知恵働き”と称する推理活動によって問題を解決していたが、高校に入学をしてからは平穏な日々を送るために小市民を志している。小山内さんとは同じ小市民を目指す”互恵関係”にある。
小山内ゆき
本作のヒロイン。船戸高校1年。明晰な頭脳に加えて行動力を持ち合わせているが、小鳩くんと同じく今は小市民を目指している。市内のスイーツ店の情報やスイーツに関する知識が豊富で、甘いものには目がない。
堂島健吾
船戸高校1年。新聞部に所属している。正義感と義侠心に溢れ、誰かが困っていれば真摯に向き合い行動する。小学生時代は常悟郎と同級生だったこともあり、小市民を目指している今の常悟郎の姿に違和感を感じているが、持ちつ持たれつの関係だ。
小市民シリーズの監督・キャスト(声優)
監督|神戸 守
アニメ「小市民シリーズ」の監督を務めるのは、大阪府出身のアニメーション演出家・監督の神戸守。スタジオジブリの前身のトップクラフトの制作進行としてアニメ業界に入り、その後は演出家へ転向する。
2004年にはアニメ「エルフェンリート」を手掛け、緻密な心理描写と多数のジャンルが融合したアニメーション表現が人気を博し、国内外で熱狂的なファンを獲得した。
本作「小市民シリーズ」では、小市民を目指す小鳩くんと小山内さんの物語が、神戸監督ならではの挑戦的な演出で見事に他の日常ミステリとは一線を画す作品になっている。
二人の間では互恵関係が結ばれていて友人でも恋人でもない不思議な関係にあります。
そんな二人が面白いのです。https://shoshimin-anime.com
小鳩常悟朗役|梅田修一朗
小鳩常悟朗役の声優は梅田修一朗。大学時代に演劇サークルに入部したことがきっかけで声優を志し、2023年には第17回声優アワード新人声優賞を受賞する。
「小市民シリーズ」では、小鳩くんの落ち着いているが、時折見せるシニカルな性格を声で見事に演じた。
小山内ゆき役|羊宮妃那
小山内ゆき役を演じるのは声優の羊宮妃那。代表作には「その着せ替え人形は恋をする」の乾心寿役や「僕の心のヤバイやつ」の山田杏奈役などがある。
本作の小山内さんの声は筆者が原作を読んだ時に想像した声と完全一致したため、感激した。繊細で深みがあり、時折人間性が見えない瞬間もある、なんとも不思議で魅力的な声である。
堂島健吾役|古川 慎
堂島健吾役を演じるのは声優の古川慎。アニメ「ゴールデンタイム」で初主演を果たすと、その後はヒット作品に立て続けに出演。「ワンパンマン」のサイタマ役や「かぐや様は告らせたい〜天才たちの頭脳戦」の白銀御行役など振り幅の大きい演技が特徴だ。
本作では登場人物の中でも最も人間臭さを感じる堂島健吾を演じた。
↓米澤穂信先生の原作本はこちらから↓
3 小市民シリーズと氷菓の違い
青春ミステリ米澤穂信の原作小説のアニメ化と言えば、古典部シリーズを原作とした「氷菓」を思い出した方も大勢いるだろう。主な登場人物が高校生で、ミステリが題材、おまけに岐阜県が舞台ということで共通項が多いが、「小市民シリーズ」と「氷菓」を比較してみると面白い違いが見えてきた。
主人公が「探偵になりたがる」か「探偵になりたがらないか」
まず「小市民シリーズ」の主人公である小鳩くんは、小市民を志しながらも探偵としての本能を揺さぶられると、ついつい推理をしてしまう癖がある。しかしながら「氷菓」の主人公の折木奉太郎は省エネ主義を掲げ「やらなくていいことはやらない。やらなければいけないことは手短に」の通り、周りの状況が彼を探偵に仕立て上げても、折木は必ず自分の意志で省エネ生活へと戻っていくブレなさがある。
「事件」と「日常」のバランス
それは物語の展開にも影響している。「小市民シリーズ」では話に大きな起伏があり、現代の社会問題や犯罪などの事件性がある題材も扱われており、それに伴う人間関係の変化がわかりやすく描かれている。「氷菓」では登場人物たちのゆったりとした日常が表現されており、深い心理描写が特徴的だ。
特に「氷菓」では、自分に才能があるのか否かという、思春期に誰しもが悩み苦しむ気持ちを、等身大の高校生の視点から切り込んでいる。
両シリーズとも青春ミステリというところで様々な角度から比較されることが多いが、どちらのシリーズも別ベクトルの楽しみ方があるため、面白い、面白くないか優劣を決めるのは難儀であり、ナンセンスかもしれない。
全編シネマスコープによる映画のようなアニメ
本作「小市民シリーズ」では、従来のアニメにはない、映画の比率での画面構成で製作されている。このシネマスコープによる功績は大きく、何気ない会話シーンでもとにかく画が映え、映画を見ているような感覚になる。
登場人物たちの心理描写もシネマスコープによって、より繊細なものになっており、このチャレンジによって小市民らしさを確立したのではないだろうか。この独特な画面構成が、物語終盤における大事件の凄みをより引き出しているのは間違いない。
4 小市民シリーズの聖地はどこ?
アニメファンにはたまらない聖地巡礼。本作「小市民シリーズ」の物語の主な舞台は岐阜県岐阜市だ。そう、気づいた方もいるかもしれないが、岐阜県は原作者である米澤穂信の出身地であり、同作者の原作のアニメ化で大ヒットを記録した「氷菓」の舞台でもある。
余談だが、筆者はアニメ「氷菓」を見て岐阜県の飛騨高山まで聖地巡礼をしたことがある。自然に囲まれた情緒ある街の中で食べた美味しいご飯は忘れられない。それからというもの、再度岐阜県に行くことを切望していたが、この「小市民シリーズ」をきっかけにまたぜひ足を運びたいと思っている。
第1話で登場した聖地を簡単にご紹介。
小鳩くんと小山内さんが苺タルトを買ったお店
お店のモデルは、岐阜県常盤町の洋菓子店「AND LADY」さん。[Instagram]
小鳩くんと小山内さんが通う船戸高校のモデル
船戸高校のモデルになったのは「岐阜県立岐阜北高等学校」で、公式サイトにも制作協力の記載がある。[公式サイト]
聖地を見ると、製作陣がロケハンを細部までこだわって徹底的にしたのが伺える。全話通して岐阜市に実際に小鳩くんと小山内さんがいるかのような背景画のクオリティだ。その徹底したロケハンの集大成がED映像にも表現されているのだろう。
第2話以降も岐阜県の素敵なロケーションがモデルとなった場面が幾つも登場するので、「小市民シリーズ」を見終えた方も、まだ見ていない方も聖地の岐阜県岐阜市に着目してみてはいかがだろうか。
5 幻想的な音楽が小市民シリーズを盛り上げる
音楽|小畑 貴裕
アニメ「小市民シリーズ」を語る上で欠かせないピースの1つは、シーンを彩る音楽なのは間違いない。
音楽を担当したのは小畑貴裕。数々のドラマ・アニメのサウンドトラックを担当し、特にアニメ「約束のネバーランド」の「イザベラの唄」は世界的にも高い評価を得た作品となった。
ティザーPVで公開となったメインテーマを聴いた際、視聴者としてアニメ「小市民シリーズ」の世界に没入する感覚を味わった。アコギのアルペジオから始まり、民族的な音調に女性ボーカルの声が加わったこの楽曲は、岐阜市の街並みをより特別なものにし、作品の方向性を決定付けた抜群の1曲ではないだろうか。
全10話を通して、改めて音楽がアニメに与える影響を感じた。
6 アニメ史に残るとんでもないヒロインが爆誕(ネタバレあり)
尻上がりにミステリの面白さとエグみを増していった「小市民シリーズ」だが、全10話を見終わっての感想は「ヒロインがやばい」が大半を占めるのではないかと思っている。もちろんそれはビジュアルや声、仕草といった要素もあるのだが、それらは理由の根幹ではない。
物語序盤で主人公の小鳩くんは、小市民を目指しながらも、目の前に謎が現れれば足を突っ込まずにいられない性が溢れている。逆にヒロインの小山内さんは、執念深い狼だという説明はあれど、スイーツが好きで、常に控え目な態度の少女ということ以外はわからない。
しかし物語終盤、小山内さんが誘拐されるという大事件を皮切りに、小市民を志す彼らの真の意味での本能が剥き出しになる。小鳩くんは名探偵として、誘拐事件の謎を解き明かすことを半ば楽しんでおり、小山内さんに至っては、徹底的な復讐のために、裏で誘拐事件のシナリオを描き、犯人たちに着せなくても良い罪を着せるという、小市民とはかけ離れた行動を取る。
復讐のために性を抑えられなかった彼らは「互恵関係」を続けることは無理だという結論に至り、コンビを解消してしまう。小山内さんの深く黒い執念を見た小鳩くんの開いた口が塞がらない姿は、視聴者も共感してしまったのではないだろうか。
青春ミステリのエンディングとは思えない、ある種のバッドエンドと言えるのだろうが、まだまだ「小市民シリーズ」の物語は続いていく。
小市民シリーズ 第2期放送が決定!
とんでもないヒロインの復讐劇で幕を締めた「小市民シリーズ」だが、最終話放送終了と同時に第2期の放送が決定した。まだまだ小市民を目指す彼らの物語がアニメで見れるのは嬉しい。
第2期では、米澤穂信の原作小説「秋期限定栗きんとん事件」「冬期限定ボンボンショコラ事件」が描かれ、原作完結までをアニメ化する。放送は2025年の4月ということで、コンビを解消した小鳩くんと小山内さんの関係がどのように交錯していくのか、筆者もとても楽しみだ。
7 小市民シリーズが好きな人におすすめの作品
探偵はもう、死んでいる
あらすじ
君塚君彦は、探偵を名乗る少女・シエスタと遥か空の上で出会い、彼女の助手となり、三年にもわたる冒険劇を繰り広げ——やがて死に別れた。それから一年。一人生き残ってしまった君塚の前に、同級生の少女・夏凪渚が現れ、終わったはずの物語は再び動き出す。
小市民シリーズが好きな人におすすめの作品は「探偵はもう、死んでいる」です。ミステリー要素もありながら、バトルにSFとジャンルてんこ盛りで、同じ探偵を題材にしながらも「小市民シリーズ」とは毛色が違う作品なので、気になった方は是非チェックしてみてください。
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