大人も子供もめんどくさい 映画「カモンカモン」レビュー |あらすじ・評価・感想(ネタバレあり)

今回紹介するのは、マイク・ミルズ監督作品「カモンカモン」。今、映画ファンが最も注目する制作会社「A24」に、主演が「ジョーカー」のホアキン・フェニックスとなれば見逃すわけにはいかない。マイクミルズ作品ならではの、家族間のあり方という繊細なストーリーに加えて、白黒で見せるアメリカの都市は圧巻のひとこと。なんだか息苦しいこのご時世に光をさすような心温まる素敵な作品だ。そんな「カモンカモン」を、あらすじや監督のルーツなどを交えながらレビューしていく。

カモンカモン

監督・脚本|マイク・ミルズ

公開|2022年

上映時間|108分

制作国|アメリカ

配給|ハピネットファントム・スタジオ

https://happinet-phantom.com/cmoncmon/

1 あらすじ

NYを拠点にアメリカを飛び回るラジオジャーナリストのジョニーは、LAに住む妹ヴィヴの頼みで、9歳の甥、ジェシーの面倒を見ることに。ジェシーは子供ながらに、疑問に思うことを次々に質問し、ジョニーを困らせる。初めての子供との共同生活で戸惑いを隠せないジョニーだったが、その一方で、ジェシーはジョニーの仕事に興味を持ち始め、2人の距離は縮まっていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが、、、。

2 カモンカモンの評価

映画「カモンカモン」のおすすめ度

★★★★☆|4/5

3 カモンカモンの監督・キャスト

監督・脚本|マイク・ミルズ

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1966年、アメリカ、カリフォルニア州バークレー生まれ。グラフィックデザイナーの顔を持ち、90年代のニューヨークのカルチャーシーンで活躍を見せる。

2005年「サムサッカー」で長編映画監督デビューを果たすと、自身の体験を基に描いた2010年「人生はビギナーズ」で知名度を上げ、2016年「20センチュリー・ウーマン」ではアカデミー賞脚本賞にノミネートされた。

そして、本作「カモンカモン-C’MON C’MON」は、マイク・ミルズ監督が父親となり、子育て中に経験した、様々な出来事にインスパイアされたストーリーとなっている。”ドキュメンタリー性を盛り込んだ寓話”として表現されたモノクロの映像美も、観る人の心を掴む。

ジョニー役|ホアキン・フェニックス

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本作「カモンカモン」で主演を務めるのは、1974年、プエルトリコ生まれの俳優、ホアキン・フェニックス。8歳の時にテレビドラマでデビューを果たすと、87年「ラスキーズ」で主演を務める。兄であるリバー・フェニックスの死をきっかけに一時的に俳優業を休止するが、復帰後は「グラディエーター」や「ザ・マスター」など数々の映画に出演し、アカデミー賞の常連組となった。

19年の映画史に残る大ヒット作「ジョーカー」では、徹底した役作りでジョーカー役を怪演する。同作で、4度目のノミネートにして初のアカデミー賞主演男優賞を獲得し、様々なメディアで話題となった。

本作では、ホアキン・フェニックスが「ジョーカー」の次に選んだ物語、という広告が打たれ、注目を集めていたが、一体どんな物語かと蓋をあけると、それは、脳裏に焼き付いたあの狂気的なヴィランのイメージを180度覆す、心温まる優しい人間ドラマだった。

「自分が共感できる瞬間や感情がたくさん描かれている」

カモンカモンパンフレットより

このように語るホアキン・フェニックスは、甥っ子と共同生活を始める、独り身の男ジョニーを自然体で演じた。

ジョニーの体験する驚きに満ちたその一瞬一瞬が、優しさの溢れる空間になったのは、ただ自然な演技なのではなく、そこにジョニーという男が確かにいたからなのだと感じた。是非、鑑賞の際には、ホアキン・フェニックスの表情にも注目して欲しい。

ジェシー役|ウディ・ノーマン

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ウディ・ノーマンは、2009年、イギリス生まれの俳優。2015年にTVドラマで、俳優デビューをすると、17年「エジソンズ・ゲーム」ではベネディクト・カンバーバッチの息子役に抜擢される。さらには、英国アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされるなど、これからの活躍がより一層楽しみな俳優だ。

本作「カモンカモン」では、ジェシー役が非常に重要であり、活き活きとした子供でありながら、大人に向けて一石を投じるような鋭い側面を持った人物が求められていた。ウディ・ノーマンは、そのような難しいキャラクター像を掴み、ホアキン演じるジョニーと対等に渡り合える、知性を持ちながらも、子供らしさを併せ持ったジェシー役を見事に演じた。

「本番でもアドリブが許されたから、僕の俳優という職業に対する考え方も変わったよ」

カモンカモンパンフレットより

子供なのに、距離感がうまく測れないジェシーという役は、ウディ・ノーマンの豊かなアドリブによってより魅力的になっており、それがまだ13歳という若さなので、その才能の底知れなさは恐ろしい。

4 マイク・ミルズ監督の描く家族関係

マイク・ミルズ作品のルーツ

マイク・ミルズ監督の作品は、自分の目で見たものや感じたもの、体験したものや観察したものを元に創作されている。

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過去作の「人生はビギナーズ」では、マイク・ミルズが自身の父親との生活や会話の中から着想を得たもので、「20センチュリー・ウーマン」では、登場人物が母親と姉をモデルにしており、いずれも家族間の体験を元に物語が構築されているのがわかる。

本作「カモンカモン」では、自身の子供を観察しながら映画を作ることを決めたそうで、完全なフィクションではないというところも、過去作との共通点といえる。

では、本作がマイク・ミルズの体験談なのかというと、そうではない。父親という設定から切り離し、叔父と甥の共同生活を描くことによって、ある日突然、子育てという大きな波にのまれる独り身の男という物語が完成した。

子を育てることの厳しさや楽しさ、不安や達成感が、一夜にして訪れるというのは、マイク・ミルズ監督が父親となり、生活の変化を身にしみて感じたからこそ描くことができたものなのだ。

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5 大人と子供ではなく「人と人」の物語

ジョニーとジェシーを囲む世界

主人公ジョニーは、認知症を患っていた母親が1年前に亡くなったことをきっかけに、妹のヴィヴと疎遠になってしまう。そして1年後、ヴィヴは精神的なトラブルを抱えた夫のポールを手助けするために、息子のジェシーをジョニーに預けることになる。

ジョニーはもちろん妹のヴィヴとは微妙な距離感、ヒビが入ったような状態。ジェシーも、父親が精神的なトラブルを抱えている中、親元を離れて、母親と微妙な距離感のある叔父と共同生活をするという状況をすぐには飲み込めない。

初めは、ジェシーの「なんで結婚してないの?」「なんでママと兄弟のように接しないの?」などの鋭い質問や、突飛な行動に困惑や苛立ちを覚えるジョニーだったが、ジェシーとの間に起こった出来事や疑問などをヴィヴに相談する内に、子供に寄り添うことの大切さに気づく。

ラジオジャーナリストとしての顔を持ち、普段子供にインタビューをしているジョニーだからこそ、それは人よりも強く感じたのではないかと思う。

そして、ヴィヴとの関係も、子育てという共通の悩みを共有することによって、兄弟らしい関係性に徐々に戻っていく。

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「カモンカモン」は、大人と子供の対話で、子供が未知の体験をして成長していくような話だとばかり思っていたが、それは物理的に大人と子供なだけであって、ジョニーとジェシーの2人は、お互いに、楽しんだり、傷ついたり、悩んだりする人間同士。

同じ空間で過ごす彼らは対等であり、わからないことがあれば、相手の話に耳を傾ける。そうやって新たな関係性を模索しながら前に進んでいく彼らの姿は、現代を生きる我々も見習わなければならないと強く思う。

未来を見据える子供たち

ジョニーはラジオジャーナリストで、ロサンゼルス→ニューヨーク→デトロイト→ニューオリンズと、東西南北の各都市で子供達にインタビューをしていった。実はこれ、子役ではなくて、実際の現地にいる子供たちに主演のホアキン・フェニックス自身がインタビューを行っているんだそう。

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「未来はどんなふうになると思う?」「未来で不安なことはある?」「正しい道を進むために大人は何ができると思う?」

様々な”人生”や”未来”に関する問いに対して、現地の子供たちは、嘘偽りのないリアルな答えを出してくれる。「未来で不安なことはある?」という問いに対して、一人の少年はこう答えていた。

「孤独が不安。他人を理解するというのは絶対に無理なような気がするから。だから一人になってしまうのがとても不安。」

カモンカモンより

この言葉は、胸に刺さった。家族や友人といっても、あくまで他人。その人の全ては理解はすることができない、という達観した考え方をこの少年は持っている。他人を理解しようと思うことはあるけど、その人の前には見えない壁のようなものがあって、その先には入ることができないような感覚は、誰しもが抱いたことのある感情なのではないか。

初めは、ジョニーもジェシーに対してそのような壁を感じていたが、ジョニーはわからないからといってジェシーの前から逃げることはしなかった。その壁に耳をあてて、声を聴く。

人を理解しようとするのではなく、寄り添うことが大切なのだと、本作「カモンカモン」では、そんなことを我々に伝えようとしているではないかと感じた。

6 カモンカモンの感想(ネタバレあり)

大人は子供と接する時に、”子供だから”というフックがつくことによって、対等に喋るということを忘れてしまいがち。かくゆう私もそうなってしまうことがある。

しかし、マイク・ミルズ監督は子育てという、驚きに満ち溢れた体験を通して、子供の声に耳を傾けることの大切さをこの映画を通して伝えている。「すべての大人は子供と彼らの未来に責任がある」というメッセージも、マイク・ミルズ作品の真骨頂だ。

映画終盤の、ジョニーとジェシーが公園の中で叫び合うシーンで、ジョニーの「今笑ってる?泣いてる?ちゃんと対応したい」というセリフは、ホアキンのアドリブ。このセリフこそ、人に寄り添うということを体現したものであり、子供を思いやってこそできるもの。(ホアキンはやはりすごい。。)

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初めは、ジョニーにインタビューされることを嫌がったジェシーだったが、母親の元へ帰る前に、自ら録音機を手にとってこう吹き込む

「未来は考えもしないようなことが起きる だから先に進むしかない 先へ 先へ 先へ 先へ(C’MON C’MON C’MON C’MON)」

カモンカモンより

子供たちの未来は無限の可能性を帯びている。先へ先へと進む彼らの声に耳を傾けることは、未来の形を決めることなのだ。子供だけではなく、今自分を囲む人たちの声にも耳を傾けようと思う。

先へ 先へ 先へ 先へ