フランスの古都に見惚れる 映画「シルビアのいる街で」レビュー|ホセ・ルイス・ゲリン監督のおすすめ配信作品も
公開日|2024年10月26日
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今回紹介するのは、映画「シルビアのいる街で」です。
野心的な作品を世に送り出す、スペイン出身のホセ・ルイス・ゲリン監督の代表作。
最初にお話すると、この映画はストーリーも台詞もほとんどないです。それなのに、筆者は繰り返し観てしまう程、心惹かれてしまいます。
従来の映画とは一線を画すほどに、ロマンチックな体験を目と耳で享受できる本作。その魅力を感想を交えながら紹介していきます。
ネタバレというネタバレはほとんどない作品ですが、気になる方は下記のあらすじ、DVDなどでご試聴の後、本記事をご覧ください。
『シルビアのいる街で』の配信情報
映画「シルビアのいる街で」は、現在(執筆時点)配信サービスで視聴することが出来ません。筆者は中古販売でDVDを手に入れ、視聴したのですが、今はどの販売サイトを見てもプレミア価格がついていたり、欠品していたりと、なかなか視聴することが難しい状況です。
いつか配信サービスで観れることを期待したいですね。
Amazonでも中古品が多いですが、購入はすることが出来るので、念の為リンクを貼っておきます。
評価
映画「シルビアのいる街で」の総合評価
Cinedrip|8 / 10
国内のレビューサイトFilmarksでは3.7 / 5、映画.comでは3.5 / 5、海外のIMDbでは6.8 / 10、Rotten Tomatoesでは78%となっており、映画評論家の多くも賞賛コメントを寄せています。
基本情報
あらすじ
6年前に出会った女性シルビアを探し求め、ある街へやって来た青年。演劇学校の前のカフェに腰を下ろし、客たちを眺めながらデッサンを始めると、やがてガラス越しに1人の美しい女性を見つける。彼女がカフェを後にしたのを目にし、慌てて後を追う。
キャラクター
彼 (グザヴィエ・ラフィット)
彼女 (ピラール・ロペス・デ・アジャラ)
感想
本作の魅力を語る上でまず欠かせないのは、うっとりするほど美しい街並みです。舞台となったのは、フランスの古都ストラスブール。フランス北東部に位置し、市の全域が世界遺産に登録されている珍しい都市です。
劇中に登場するストラスブールの景色は、どこを切り取っても息を呑むような美しさで、石畳で出来た路地裏でさえ陶酔してしまいます。
その美しい街が16mmフィルムで撮影され、さらに独特な画面構成によってより魅力を増しています。
序盤で、石畳で出来た路地裏に現地住民とおもしき人々や、スーツケースを持った旅行者が通っていく様子がかなりの長尺で映し出されます。そこにふらっと”彼”がホテルから出て来るという不思議な構図。
ドキュメンタリー映像と思わせて、はっきりと劇映画に変化するこのメリハリは秀逸です。
というのも監督のホセ・ルイス・ゲリン監督は、メインキャスト以外のほとんどは現地で暮らす人々を撮影しているとのことで、それ故に映画にリアルさが出るのかと納得。
そして“音”も本作の魅力の大部分を占めていると言えます。
自転車のベルの音、石畳の路地を人々が歩く音、ノートに鉛筆を走らせる音、風の音、トラムが静かに走っていく音、そのどれもが従来の映画と違い、より近い、生の音として聞こえてきます。
“彼”のようにカフェテラスの席に座り、物思いに耽るとすれば、きっと様々な音が耳に飛び込んできます。その音が再現されることで、シルビアと6年前に出会ったこの街の全体像がくっきりと浮かび上がってくるのです。
街中で聞こえるあらゆる音を録音し、音作りから作業に入ったという本作の強いこだわりが見えます。
本作の魅力の最後のピースは、主人公の”彼”の一人称視点で映し出されるこの街です。
6年前に出会ったシルビアという女性を探してこの街にやって来た彼ですが、演劇学校に通っていたという事以外はほとんど手がかりがありません。
カフェに腰をかけ、女性たちをデッサンする彼は、シルビアらしき女性を見つけ、その後を追います。それもかなりな距離なので、言い逃れが出来ない完全なストーカーです。
気持ち悪いと一喝すればそれまでですが、観客は彼と同じように「果たして”彼女”はシルビアなのだろうか」とついつい後ろ姿を追ってしまうのです。
そして彼が彼女を追っている間、ストラスブールの街は一切客観的な視点で映し出されず、彼女だけにフォーカスが当たっているように見えます。これは、彼がシルビアという女性に強い幻想やロマンを抱いている事が巧みに表現されています。
そしてその幻想は、彼女の「人違いよ」という言葉によって打ち砕かれてしまう。さらにストーカー行為に対しても「酷いわ」とお灸を据えられてしまう始末。(本来ならポリスに連れて行かれます)
当然彼は途方に暮れてしまいます。手掛かりが無い時点で、彼は会えない事も少しは想像していたに違いありません。ただ、それでもこの街に、シルビアに会いに来た。切なさも内包しているからこそ、この映画は群を抜いてロマンチックなのです。
物語終盤、彼はトラムの停留所で少し物憂げな表情で女性たちを見つめています。まだシルビアへの想いは断ち切れていないのか、彼が女性の姿を書いたノートが風でペラペラとめくれています。
おそらくこの旅で、いや今後一生彼はシルビアと会うことは出来ないかもしれない、ただ彼はずっとその幻影を見つめているのかもしれません。
そして映画を観終わり、目を瞑ると、彼とシルビアが出会ったストラスブールの美しい街並みが見え、そこに住む人々の声や、トラムの走る音がはっきりと聞こえてくるのです。
余談
余談ですが、彼がシルビアと出会ったバー、飛行士でかかっていたのはBlondieの「Heart Of Glass」でした。彼が躍起になって隣で飲んでいるターニア(ターニア・ツゥシー)にナンパしますが、結局他の男に取られてしまうあたり、彼はモテないのではと思ってしまいます。なんならシルビアにも連絡先を教えてもらえなかった可能性も,,,。イケメンだからと、一括りにしてはいけないのかもしれません。
本作が好きな人におすすめの映画
ミューズ・アカデミー
配信情報
※本ページの情報は2024年10月時点のものです。
最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
あらすじ
イタリア人のピント教授は、バルセロナ大学で現代のミューズ(女神)像を探るべく「ミューズ・アカデミー」を開講。だが、生徒たちとの果てない議論は予期せぬ方向へと向かっていく。一方、夫の浮気を疑うピントの妻は、彼のミューズ像を強く否定するが,,,。
同じくホセ・ルイス・ゲリン監督の作品です。実在するイタリア人のピント教授を主人公に迎え、現代におけるミューズ(女神)像とは何か講義をする様を半フィクションで描いた異色の作品となっています。
「シルビアのいる街で」でゲリン監督の世界観が好きになった方に是非お勧めしたい作品です。