
【感想&考察】LAZARUS ラザロ 最終回 第13話でハプナ事件が終幕を迎える|人類の未来はどうなる?
公開日|2025年7月7日
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第13話 『THE WORLD IS YOURS』
*ネタバレが含まれております
ついに最終回を迎えたアニメ「LAZARUS ラザロ」。
最終エピソード第13話のサブタイトルは『THE WORLD IS YOURS』となっており、こちらはヒップホップ界を代表するレジェンド、ナズ(NAS)の大名盤「lllmatic」の同名曲に由来しています。

洗練されたビートと、ナズの代名詞とも言われる文学性の高いリリックによって、90年代のヒップホップの傑作の1つと評価されているアルバム。
そこまでヒップホップに精通していなかった筆者でも、この「lllmatic」を初めて聞いた時、「なんかわかんないけどヤバい!!」と語彙力のかけらもない感想を抱いたのを覚えています。
音の気持ち良さだけでも十二分に楽しめるのですが、後々に歌詞を読んでいくと、犯罪や貧困といった社会背景や、内面の葛藤などが深く掘り下げられていることに気付き、単に言葉の羅列に留まらない作品ということに気付かされるんですよね。
例えば、4曲目に収録されている楽曲『THE WORLD IS YOURS』は、直訳すると「世界は君のもの」というシンプルで前向きなメッセージにも聞こえます。
しかしこの曲の背景には、不平等で劣悪な環境下においても、それを乗り越えようとする意志で未来は切り開けるという、ナズ本人のリアルな経験に基づく、決して美化されていないメッセージが込められているんです。
それは本作で、鎮痛剤で人類滅亡を図ったスキナー博士の発言とも通ずるところがあります。
自身の研究する薬を、争いのための生物兵器に転用され、人が死んでいく光景を目の当たりしてしまった。
そんな非道な行為がまかり通る世の中で、人類が生きる価値はないと絶望したスキナーでしたが、最後にアクセルの言葉を聞いて安堵する表情はまるで、世界を諦めるにはまだ早かったと言っているようでした。
「世界は君たちのもの」というスキナーの言葉は、こんな酷い世の中でも、それを乗り越えようとする意志で未来はいくらでも良い方向に転がるという、我々に向けてのメッセージなのかもしれません。
毎話の物語と見事にマッチしていた、洋楽モチーフのサブタイトルも、今回で見納め。
渡辺信一郎監督の音楽的素養とセンスには、脱帽せざるを得ません。
ちなみに、「別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界」には、監督の人生観などを掘り下げたインタビューや、生涯ベスト100アルバムなど、音楽面にもフォーカスされた内容がぎっしり詰まっているので、渡辺監督のファンや音楽ファンにはおすすめです。
また、先日発売された「渡辺信一郎の世界 『カウボーイビバップ』から『LAZARUS ラザロ』まで」では、これまで監督が手掛けた作品を1作品ずつ取り上げ、企画のアイデアや設定なども細かく記載された濃密な本になっていました。
手書きのメモなど、貴重な資料なども掲載されているので、これから物作りを始めようとする方にも読み応えのある内容になっているのではないでしょうか。
LAZARUS ラザロ

原作・監督|渡辺信一郎
アクション監修|チャド・スタエルスキ(87Eleven Action Design)
キャラクターデザイン|林明美
制作|MAPPA
放送|2025年4月〜
話数|全13話
アクセルと双竜の最終決戦
前回のラストで、アクセルの端末に「天使の見つめる場所で待つ」というメッセージが届いていましたが、この主はもちろん双竜ということで、前半パートではアクセルと双竜の最終決戦がメインで描かれることに。
本作では、スキナー探しの過程で謎を解きながら居場所を探すことが多かったので、今回の「天使の見つめる場所」も何かの暗号ではないかと疑いましたが、これは文字通りバビロニアタワーの最上階、天使像の真下でしたね。
体の具合が万全ではないアクセルと、自分が誰なのか分からなくなっている双竜という、満身創痍の状態での2人の戦闘は、まさに物語のクライマックス感を醸し出していていました。

完パケ状態での放送開始ということもあるでしょうが、第1話の衝撃的なアクションからクオリティが全く落ちることなく、なんなら回を重ねるごとにパワーアップしていたのは素晴らしかったです。
最終回では、崩落するビルのなかでのワイヤーアクションや、パルクールといった、これまで積み上げてきたラザロらしい要素を全放出し、息を呑むような描写になっていましたね。
そんななかで、謎に包まれていた双竜の過去も明らかに。
彼は、国家主席の主導で行われた、主に孤児を対象とした秘密裏のプロジェクト「ウェントン計画」に強制的に参加させられ、暗殺として育てられたとのこと。
最高傑作と呼ばれるほどに成長した双竜でしたが、その頃には感情も人間性も無く、意思疎通も図れない怪物となっていたため、教官や生徒を皆殺しにしてしまい、記憶も消されてしまった過去が明らかになりました。
双竜の代理人のHQは、自身が殺し屋に育てられた忌まわしい過去から、自分を守るために作られた人格なのかもしれません。
最終回でようやく双竜の過去も明かされて良かったのですが、本筋であるハプナ事件とそこまで絡んでこなかったのは少しだけ残念でした。
天使の羽根のネックレスのお話が意味深だっただけに、アクセルと双竜が実は同じ出自という展開や、スキナーとの繋がりなどを期待していましたが、結果的には、陸軍情報部の証拠隠滅のために雇われた殺し屋という域に留まってしまった印象。
しかし、瓦礫の下敷きになった双竜が、アクセルから「顔に穴を開けられたウェントンは死ぬ」という結末を聞く場面は、彼の過去を知ったことで、胸にくるものがありました。

双竜は自身の過去を思い出したことで、感情のない怪物ではなく、1人の人間としてほっとしたように息を引き取ります。
この時、アクセルも何かを思った様子で、双竜の顔をじっと見つめていたのは印象的。今まで無双状態だったアクセルにとって最大のライバルとなった双竜の死は、今後の彼の人生に大きな影響を及ぼすのだと想像させてくれるようなシーンになっていました。
ラザロ結成の秘密
最終回にしてついに、今まで謎に包まれていたラザロ創設の理由が明かされました。
エレイナがハプナによる高熱から復活できたり、生物兵器による被害で心臓が止まったクリスが息を吹き返した話がありましたが、実はラザロのメンバー全員が、スキポール空港の事故に巻き込まれていたとのこと。
死から蘇ることが出来たのは、遺伝子が突然変異したことによる影響であり、その特異な体質を持ち合わせた人間で、ラザロは組織されたということだったんですね。
おそらくアクセルに関しては、刑務所にいた時にハプナの人体実験をさせられてたので、正確には空港事故では死んでいないという可能性もありますが、いずれにせよ奇跡が起きたことによって集められたのが、エージェントチーム・ラザロでした。
しかし、復活できた人間で構成されたといえども、具体的にどのような利点があるのかというのは少し疑問に残るところです。
ハプナによる副作用が出ないというのが主な理由だと思いますが、アベルとハーシュが彼らにしか救えないと思う大きな根拠にはならない気もします。
もしくは、空港事故について調査を進めるなかで、生き返った5人がたまたま特別なスキルを持っている人間だと判明したから、ということなのでしょうか。
なぜ彼らでなければならなかったのかというのが、空港事故を絡めたエピソード0や、後日談などで語られることになれば、より物語にのめり込めるのではという印象でした。
とはいえ本作は、あえて説明的な描写に頼らず、行間を読ませるような演出によって、物語に深みを出しているのも大きな魅力だと思うで、全話鑑賞後に自分で補完していくのも楽しみの1つなのかもしれません。
スキナーの想いと人類の未来
人類と世界を救うために、ハプナ事件解決に向けて奔走してきたラザロでしたが、ついにラザロは、その首謀者であるスキナーと出会うことになりました。
最終的に彼がずっと潜伏していた場所は、以前ダグが訪問したホームレス地区で、その時にスキナーにそっくりだった盲目の男性が、まさにスキナー本人だったんですね。
現在の彼は、犯行声明を出した時よりも衰弱している様子。しかも、自らが開発したハプナによる影響で、目がほとんど見えていない状態です。

そんな彼に対してハーシュは真っ先に銃口を向け、特効薬はどこだと問い詰めると、スキナーは潔く負けを認め、薬の分子構造式を書いた紙を彼女に渡します。
最終回では、なぜスキナーが人類を滅亡させるような事件を引き起こしたのかという経緯が語られました。
それは、彼が本来研究していた薬を陸軍情報保部が生物兵器として転用しようとしたことに強い拒否反応を示し、その事実をリークしようとした矢先に空港事故が発生。
その結果として、大勢の無関係な命が奪われしまう惨状を目の当たりし、自分にも人類にも生きていく価値が無いのではという疑問が浮かんだのが、事件を起こしたきっかけでした。
最愛の人であろうハーシュを置いて行ったのは、そんな事態に彼女を巻き込みたくない想いと、変わってしまった自分を見られたくない気持ちがあったから。
それでも一緒に行きたかったと語るハーシュの表情を見れば、スキナーをどれほど大切に思っていたかが伝わってきます。
しかし、そんな事件を起こしてもなお、人類が生き延びられる選択肢を残していたのは、世界のために行動を起こしてきた当時のスキナーのままだという証拠。
そんななかで、アクセルがスキナーに、実際は人類が滅んだ方が良かったのではないかという質問をしていました。それに対してスキナーは、「君にはこの世界はどう見える?」と問います。
思い返せば、スキナーは犯行声明時に、「私は神になったつもりではない」と言っていたことから、そもそも人類が滅ぶべきか否かというのは、1人の人間が決められるはずがないと思っていたんですよね。
だからこそ、世界の未来を背負うであろう1人の若者の目を通した今の世界が、どう見えるのかを知りたかったのだと思います。
そんなスキナーの問いに、「全くひでえ世の中だけど、そこまで捨てたもんじゃないぜ」と答えるアクセル。

冒頭に話したナズの話に戻ってしまいますが、アクセルも生活のために苦労を強いられてきた人間なので、世界に絶望してもおかしくない気がします。
ただ彼は、そんな劣悪な環境下を乗り越えようとする意志を貫き、今ではラザロという仲間を持つこともできた。このアクセルにしか出せない答えには、思わず筆者もウルっときてしまいました。
そんな未来に微かな光を感じるような言葉を聞いて、スキナーは安らかに眠りにつきます。
最愛の人に先立たれたハーシュの頬に、涙が流れていたのも印象的でした。
ラザロと世界の後日談
ハプナ事件は無事解決となり、ラザロの処遇はどうなるのかと思いましたが、どうやらアベルが大統領に対して働きをかけたおかげで、彼らは処分されることなく、過去や犯罪歴なども全て抹消されることに。
さらに、「まだまだ世界には問題は山積みだ」と言うアベルから、再度チームラザロに加入してくれないかという誘いを受ける5人。
確かに、人類を救った影の英雄たちを早々に解散させるのは、勿体無いという気持ちはわかる気がします。
今まで仲間を作らないと言っていたアクセルだけが少し悩む素振りを見せましたが、「ちょうど暴れ足りねえって思ってたんだ」と言って、5人全員がラザロとして再始動するという、シーズン2を匂わせる綺麗なラストとなりました。

本作は、ハプナ事件を解決するという1本軸の物語として見ていましたが、ラザロが本当のチームになるまでの物語でもあったんですね。
筆者としても、この関係値が積み上がった状態でのラザロの大活躍が見たいです。大きな事件を解決するストーリーも面白そうですが、5人でツッコミを入れながらわちゃわちゃする、オフビートな物語が見てみたいところ。
さらに最終回のエンディングでは、人類が助かった後のエピローグが描かれていました。
ラザロが表舞台には立てないため、準レギュラーだった警官のおじさんがスキナーを捕まえた英雄になっていたり、エレイナの友達がコミューンから外の世界へ飛び出し、カフェラテらしきものを飲んでいたりと、肩の力が抜けたキャラ描写がたくさんあって良かったです。
筆者は、エレイナがドクター909にハッキングシステムを滅茶苦茶にされて、怒っているシーンが好きでした(笑)。
シーズン2があるのなら、エレイナ、リン、909の世界3大ハッカーが協力して最強の情報戦を繰り広げて欲しいです。
総評
渡辺監督が本作を「集大成的な作品」と言っていたように、全ての要素が緻密な計算のもとに見事に融合していた作品だと思いました。
特にアクションに関しては、アニメならでは良さは保ちながら、リアリティラインが足されたことで、今までに見たことのない域に達していたような印象。
物語としては、本筋と直接的に関係ないキャラクターの登場によって、焦点を合わせにくかった部分も多少はあった印象ですが、スキナーを探して人類を救うという目的から決して逸れることはなく、そのなかでもラザロメンバーの日常や、キャラの深掘りをしていく展開は素晴らしかったです。
原作付きのアニメが主流となっている近年においては、きわめて挑戦的な作品にも関わらず、これだけ多くの視聴者を最後まで楽しませるクオリティには脱帽せざるを得ません。
可能であればシーズン2で、もっとラザロの活動が見たいですね。
渡辺作品のファン必読の2冊
洗練された唯一無二のアニメーションで、国内外に多くの熱狂的なファンを獲得し続けている渡辺信一郎監督ですが、その半生の振り返りや濃密なインタビューが載ったファン必読の2冊が現在発売中です。
「渡辺信一郎の世界 『カウボーイビバップ』から『LAZARUS ラザロ』まで」は、これまで監督が手掛けた各作品を掘り下げながら、細かい設定資料なども掲載された濃密な本となっています。
「別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界」では、渡辺作品が自身の半生について振り返ったインタビューや、音楽についてのディープな話も掲載されたファン必読の本です。
筆者は2冊とも読破しましたが、どちらも読み応えのある内容になっていますので、気になった方は是非チェックしてみてください。